第5.5話「王国の日常・使い魔編」

     特別番外編:(Stinger執筆・美冬監修)


使い魔スティンガーの朝は早い。
夜明けとともに目を覚まし、
「・・・(朝か)」
「・・・(寝よ)」
再び眠りにつく。

 

しばらくすれば城も賑やかになってくる。
朝の食卓に並ぶ食事の匂いに釣られ、再び使い魔は目を覚ます。
「・・・(朝飯か、移動めんどいから誰かに乗ってこ)」
ふらふらと飛びながらいつもの頭の上に向かう。
「おじいちゃんおはよー!!ご飯だよー!!」
だから来たんじゃんかよと思いつつ、使い魔は頭の上に乗る。
今の主の妹、ルンはいつも元気だ、元気過ぎてわしゃついていけんよ。
等と世迷い言を考えている間に食堂に着く。

 

「おはよう、ルン、スーちゃん」
「おはようございます、ルン様、スティンガー様」
「おはよー」
既に食堂にいた女王の美冬、執事モノズキ、一般人・・・じゃなかった参謀かなんかのハルカが挨拶をする。
人間というものはいちいち役職のようなものがついて回るらしい、面倒なもんだな。
「あ、お二人ともおはようございます!」
用意をしていたロゼッタも顔を出し声をかける。
こいつも無駄に元気だったな。

 

「ごちそうさまでしたー!!」
ルンの元気な声が食堂に響く。
・・・おい、新米メイドよ
な ん で 俺 の 飯 は 穀 物 な ん だ
鳥のかっこしてるだけでとりじゃねええんだぞおおおおおおおお!!
まぁ、全部食ったけどさ、後でシメとかねーとな。おい女王よ、何クスクス笑ってやがる。
他人事だと思って。お前がちゃんと言えよ。
「オジィチャンさん量足りました?」
等と人が、鳥が?考えてる時に何いってきてんだこいつは
威嚇を含め睨みつけると
「あら、その表情…喜んでいただけましたのね?嬉しいですわ♪」
「・・・な訳ねーだろ」
小声でボヤくもこのポンコツメイドには聞こえないらしい。

 

朝飯に不満を残しつつも活動を開始する。
まずは城の外に出て、日当たりのいい場所を探す。
寝床を決めたらすることはひとつ、食後の睡眠だ。
今日は特に何もないし、昼飯までのんびりとしよう。

 

お、いい匂いがしてきたな。
どうやら昼飯時のようだ。
例のごとくルンの頭に乗り食堂へ。
「・・・」
どうやら俺の扱いはペットのようだ。
目の前のオジィチャンさんと書かれた器、そこに盛られた穀物を見て、使い魔は察する。
おい執事、苦笑いなどしていないでどうにかしろ。新米の教育はあんたの仕事でしょうが。
ポンコツメイドは俺の気持ちも知らず「どうです?この量ならさっきよりも満足でしょう?」とでも言いたげな自信満々な表情だ。
・・・殴りたいこの笑顔
しばらく食事は苦行になりそうだ。

 

さて、午後は少しは活動するとしよう。
しかし何をしたものかと使い魔は考える。
主の所に行ってみるか?
行ったらどうなるかと考えてみる。
恐らくこき使われるか稽古の相手をしてと言われるのだろう。
人間の稽古に付き合うのはたまには悪くないが、今日は興が乗らんからやめておこう。
モノズキ・・・どう考えてもこき使われるやめよう。
あの男は笑いながらあらゆることを押し付けてくるに違いない、あの笑顔には逆らえない。
ハルカ・・・はいいや。
からかえば面白いがそんな気分でもない。
特に害がないし、ルンでもからかいに行くとしよう。

 

特に害がないといったな、あれは嘘だ。
ある男の名台詞にそんな感じのがあるらしいが、まさにそんな状況だ。
部屋に行ったら俺の存在に気づいたらしく
「あ、おじいちゃん!お茶飲む?」
というもんだから飯も飯だったしもらうかなと思って待っていたら
バシャーン
茶を注ぐタイミングで見事に手が滑り俺に熱湯がかかった。
普通なら全身火傷ものだが、そこは魔物なので感覚的にはシャワーを浴びた程度だが。
「おじいちゃん大丈夫!?速く冷やさないと!」
ちょっと待て、氷水の用意をするな。
なんとか説得に成功し、タオルで拭かれる程度で済んだ。
これ以上は危険と判断し、茶をすすり雑談も程々に撤収だ。

 

今日はこれ以上誰かに関わるのは危険と判断した使い魔は、屋根の上でのんびり昼寝と決め込む。
やはり昼寝が一番だなと思いつつ、まどろんでいると一羽の鴉が近くにやってきた。
「相変わらずここで寝るの好きッスね」
シャベッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
と普通なら突っ込みたくなるところだろうがこの鴉、魔物である。
「また人間界きたの? 暇なの? バカラスなの?」
半分八つ当たり気味に言う。
「土産持ってきたから機嫌直してくださいよ」
バカラスと呼ばれた鴉は胸元?から胡散臭い蠢いたものを出す。
「うっひょー、流石レイヴンさん気が利くわ-!いただきまーす」
魔界で好物だったものを目にし、使い魔は一気にそれを平らげた。
「で、魔界の方はなんかあったの?」
腹も満たされ真面目な話に移行する。
「いや、相変わらずッスね。おっさんもピンピンしてるし」
ちなみにこのおっさんとは、所謂魔王というやつだ。
「またそのうち顔出すかー」
この使い魔、普段はぐーだらしているだけのデブ鳥と思われているかもしれないが、実は結構高位の魔物なのだ。
よくありそうな四天王的な感じの。
スティンガーがやられたようだな、フッ奴は四天王の中でも最弱・・・ってちげーよ弱かねーよ。
今の魔王が割と温厚なため、挑まれても強いと判断すると配下にならん?とかいってくるような甘ちゃんだったのだ。
今もだろうけどな。
昔挑んでボロクソに負けたが、まぁ、暇だしとなんとなくついてったら
「お前四天王な」
・・・は?
何言ってんだこのバカは
「実力あるし、なんかそんなポジション作りたいからよろしく」
そんなことを唐突に言い出し、結局他3人もいつのまにやら用意をしていた。
まぁ、そんな肩書きができると挑んでくるバカもやって来るわけで。
そんなバカの一人がこのバカラスことレイヴンだった。
挑んできて負けて以降、使い走りとして重宝してる。
バカとか言われてるが、魔界の中ではそこそこの実力派である。

 

「暇ッスねー」
「だなー」
なんて言いながら魔界で茶会と洒落こんでいた日のことだ。
突然レイヴンの足元に魔法陣が浮かび上がった。
「え? 何スかこれ? 魔界製じゃなさそうなんだけど」
「なんか面白そうだ、そこ代われ」
そうしてスティンガーは使い魔として人間界に召喚された。
召喚されたどり着いたそこはとある城の一室だった。
そこにいた男に尋ねる。
「召喚したのお前?」
なんとなく魔物っぽく偉そうに聞く。
「そうそうオレオレ」
魔物相手に気安く答える召喚したと思われる人物。
「・・・」
「・・・」
お互い無言でにらみ合い、次の瞬間
「「ウェーイ!!」」
奇声を上げつつ乾杯していた。

 

そうして人間界にやってきて暫く経つが、まぁ悪くはない。
なんて少し昔を思い出しながらバカラスと昔話をして日も陰り
「さて、俺はそろそろ戻りますわ。最近下級がちょいちょい人間界に来てるみたいなんで、少し気にしといてくださいッス」
「死なない程度にイジメとくわ」
テキトーに返し、レイヴンは魔界に去っていく。
いちおー魔物って危ないものなんだぞ。いい子の皆はちゃんと覚えておくんだゾ☆

 

たまには魔物らしいことしてもいいですかねぇ?
目の前の晩餐を眺めながらそう思う。
今度は晩餐で少し豪華さを出そうとしたのか、穀物の中にとうもろこしが入っている。
案の定のドヤ顔を披露しているポンコツメイド。
ほら?少し豪華でいいでしょう?
そう顔が語っている。
お前俺鳥じゃねえぞ魔物だぞ、ホント後でシメとくかな。いや、俺がこんな思いしているのに無反応な普通のやつにしよう。そうしよう。
半分諦めつつ飯を済ませ、また屋根の上へ。

 

さて、食休みをするかねと少し横になる。
夜風が気持よく眠気を誘う。
しかし大して寝てもいられなかった。
夜が更け街が闇に覆われ、感じる魔物の気配。
本来魔物に人間のような食事の意味は無い。
とろうがとるまいが問題ないが、謂わば趣味のようなものだ。
そういう行動を好む奴もいる。
とは言え、俺の縄張りで好き勝手させる訳にはいかない。
「仕方ない、たまには働きますかぁ」
そう言うと、人のような、龍のような特徴の”何か”が街へと降りていった。
夜は、静かに更けていった。

 

「・・・(眠い)」
訪れた夜明けに不満を持ちつつ目を覚ます使い魔。
さて、今日も寝て過ごすかね。

 

あ、それと俺は何もしちゃいないんだが、飯がまともになったとともにポンコツメイドが平謝りしてきた。
あの飯も実は悪くないと思いはじめてたんだけど、まぁいいか。

 

「あ、オジイチャンさん危ない!!」
ポンコツメイドがなんか言っとるな。危ない?
あれ、上から何か液体がふってくるなぁ。あぁまたポンコツ筆頭の妹か…でもまぁそんなに熱くないしだいじょう…
「あっつぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」